生涯録

16歳の熱をいつまでも since2013

得たもの、失ったもの

私の人生を変えた「事件」は、今から三年前、当時付き合っていた彼女と別れたことでした。あるいはもっと昔、六年前にその彼女と付き合いだしたこと、と言ってもいいかもしれません。いずれにせよ、彼女と付き合ったことが私の人生を大きく変えました。

 

相手の女性の名前を仮に緑さんとしましょう。

当時私には緑の他に好きな女性がいました。しかし、その女性にボーイフレンドがいたこともあり、私はものの見事に振られてしまうわけです。

 

私は、私が振られる以前から緑が私に気を持っていることを知っていて、緑もまた、自分の気持ちに私が気づいていることを知っていました。

 

今にして思えば誠実さの欠片もないのですが、私は振られた直後、寂しさを紛らわすようにして緑と付き合い始めました。

 

よくある話、といえばそうかもしれません。

 

付き合いだした頃は、緑のことを心から好きだと胸を張って言えませんでした。しかし、始まりの時点で恋心からくる好意、ないしは愛情と呼べるようなものがなくとも、関係が深まるにつれ、徐々にそうしたものが生まれるということも、また往々にしてよくあるのです。

 

私もその例にもれることなく、時間とともに、それまで気づかなかった緑の持つ多くの魅力に気づき、恋をし、緑を愛し始めることになります。

 

付き合った三年間のうちに、私たちはここには書けない類の経験も含め、様々な、本当に様々な経験をしました。月日の過ぎ行くなかで、私は変わり、緑もまた変わりました。

 

彼女は精神的な意味での自立を始める一方で、私は、別な意味での自立した精神、というものを失っていきました。私の角は丸くなりました。

 

付き合い始めて一年ほどすると、緑は私に向かってよく怒るようになりました。

 

次第に、私は沈黙し、自分が話すよりも緑の話をよく聴くようになりました。

私が黙って話を聞き、相槌を打っている限りは、緑の機嫌をある程度保つことができたためです。少なくとも、そうしている限り、話し始める以前より緑の機嫌が悪くなるというようなことはありませんでした。

 

私は緑を甘やかすようになりました。

機嫌の悪い時には甘いものをご馳走しました。彼女の不条理で傲慢な物言いに対して、文句や提言の類を注意深く避けては、辛抱強く彼女の言葉に耳を傾けました。

 

こうしてひとりぽつねんと振り返れば、私が彼女から奪ったものは数え切れず、同時に彼女が私から奪ったものもまた計り知れず、互いが互いにトラウマを作り合うような付き合いであったと、言えなくもありません。

 

私はよく怒られました。「わたしと会っているときに自分の興味を持ち出すな」と。

私は一つの物事をじっと考えることが、いつの間にかできなくなりました。中途半端な形で物事を終えることが多くなりました。その代わり、他者の意見に耳を傾け、物事を柔軟に、複眼的に考えることを覚えました。

そのうち、私はがらんどうになりました。

緑は、確かに、僕の身の内にあった情熱の炎みたいなものをふっと一息、消してしまったのです。

 

緑とは今でもたまに会ってお茶をします。

私にはお金があまりないのですが、ホテルの高級な喫茶店に入ったり、レストランに行って食事をご馳走したりします。もちろんそれ以上のことはありません。

会って話して、食事をし、解散するのです。

 

私はその間、自分の思考を停止し、彼女の話に黙って肯き、終わりには食事の代金をペイして、ああくだらないと心中ひとりごちて、彼女に向かって手を振るのです。

 

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