生涯録

16歳の熱をいつまでも since2013

昼休み

昼休み、ときどき僕は職場を抜けてとある喫茶店に行く。その喫茶店は町のメインストリート沿いに建つビルディングの二階にあって、南向きだ。僕はよくその店の窓際に座る。晴れた日はこれでもかというほど太陽の光が射し込んできて、僕の肌を焼く。

 

店に入ると同時に僕はいつもの日替わりコーヒーを頼む。しばらくしてコーヒーが運ばれる。小さなチョコレートをのせた小皿とともに、机の上にそっとカップが置かれる。

僕は本を読んでいる。1990年代に一世を風靡した赤い表紙の本だ。つい数年前に映画化もされている。

 

僕はその本を読みながら、ある女性のことを考える。今となってはけっして会うことのできない一人の美しい女性のことを。同時に、彼女にとってミクロンの説得力すら持たない貧弱な言葉の数々について考える。あるいは失われてしまったささやかな親密さについて。その親密さは僕に春のあたたかな木洩れ日を思わせた。結果として僕はその木洩れ日をよすがに、誰しもがぶつかる人生の壁のようなもののいくつかを乗り越えたことになる。

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